V8に効くオイルEngine oil for V8 

御客様からお預かりした車輌の作業が優先となるため、なかなか触る時間が取れない中、とりあえずガスレポ仕様が完成しつつあります。
元から付いていたホーリーキャブの上に乗る、インジェクターのデリバリーパイプを製作しました。これで2本のインジェクターから、全気筒に燃料が送られますが、ガスレポとナンバー取得までの暫定的な物です。インジェクターはキャブに引っかけてあるだけなので、キャブ仕様にもすぐに戻せます(戻しませんが)。

流れ的には、ガスレポ後にサイドマフラーを製作して、新規で公認ナンバーを取得。自由自在に移動できるようになったら、制御もボディも一気に手を入れ、年明けの東京オートサロン2018での御披露目を目指します。
で、今回ですが、間が開いてしまいそうなので、インターセプターに使用するエンジンオイルの話です。


同じオイルを定期的に交換している場合の話になりますが、オイル交換した直後に「驚くほどスムーズになった!」「オイル交換すると全然違う!」と感じるオイルを、僕は使用しません。

つまり、それは体感できるほど劣化するオイルということです。乗ってる人間がハッキリ体感できるレベルで劣化しているのであれば、エンジンに悪い状態なのは明白。「エンジンに対する潤滑性能も新品と同じではない」のであれば、粗悪オイルを入れているのと同じです。

インターセプターに使う最良で最高のエンジンオイルは何か。国産のハイパフォーマンスエンジンとアメリカンV8は、同じエンジンとは言い難いほど色々と違う部分があります。このため、エンジンオイルひとつを取っても、同じ常識が通用しません。
アメリカンV8と言っても色々ありますが、ここではラストV8=フォード351Cを例にとって、判りやすい違いの部分を解説します。

日本のハイパワーチューニングの世界では、長らく排気量3000cc前後の6気筒、2000cc前後の4気筒が定番でした。レシプロエンジンで低回転のトルクと高回転のパワーを両立させるには、1気筒あたり500ccの排気量がベストと考えられてきたこともあり、このくらいの排気量をメーカーが長く生産していたからです。
これらのエンジンに採用されるピストンの直径は、だいたい86φ前後となります。これに対して351Cのピストン径は、なんと102φ。これだけピストンサイズが異なれば、熱膨張の具合も変わります。そう、ピストンクリアランスが大きく異なるのです。

国産車の場合、ピストンとシリンダーのクリアランスは4/100~6/100mmで組むのが一般的です。つまり0.05mm前後が日本のエンジンでは基本。
対する351Cでは0.005~0.0055インチ(0.13~0.14mm)くらいが一般的。つまり、日本と比較して倍以上ガバガバのクリアランスで組んでいるのです。これは単純にビッグボアという理由だけではなく、昔のピストンの方が膨張率が高かったのも理由の1つです。

アメリカンV8がこれほどのクリアランスなのは、暖機してピストンやシリンダーが膨張した後の適正値から逆算した結果であり、決して適当に組んでいるわけではありません。
しかし、冷間時に大きなクリアランスがあるのは事実であり、ガスの吹き抜けや異音の発生は避けられません。これを解消するためには、超高粘度のエンジンオイルが必須であり、超高粘度のエンジンオイルを使用するからこそのクリアランスといえます。つまり、15W-40~20w-50などのオイルが一般的に使われているのは、こういう理由があるのです。
このような粘度のエンジンオイルこそ、351Cには最良の選択といえます。

インターセプター用オイルEngine oil for Interceptor 

僕の場合は、「圧倒的にストリートを走行する機会」「乗らずに放置する機会」が多い反面、「600馬力のフルパワーで全開走行」というシチュエーションもあるため、そういう使い方にピッタリのエンジンオイルを選択したいと考えています。

エンジンオイルといえば、昔は「化学合成」「半合成」「鉱物油」の3種類。とても判りやすい松・竹・梅でしたが、現在は「鉱物油を改質したオイルも化学合成を呼称して良い」という流れになってしまいました。「改質油」は鉱物油と呼ばなくなり、「改質油+化学合成油」も、半合成油と呼ばれなくなりました。つまり、どれもこれもが化学合成オイルになってしまったのです。
このため現在の化学合成オイルの中身は、デフレで安物指向になった顧客に合わせ、価格の安い改質油がほとんどです。

逆に高性能オイルに目を向けると、「エステル」と呼ばれる高品質油をブレンドした製品が増えています。
エステルには色々な種類があり、オイルをワイドレンジ化したり、より潤滑性を高くできるなど、魔法のようにオイルの特性を「簡単に変化できる」のが特徴です。しかし、エンジンのシールに対して攻撃性がある要素や、鉄を錆びさせる要素、水による劣化要素を含む物もあり、元々は短期的に使用するレース用です。
エンドユーザーの僕の立場では、どのようなエステルが使われているかが判らない以上、容易に手を出すことはできません。このため、「エステル入りのオイルはできる限り使わない」という方法を選択します。


昔定番だった100%化学合成オイルは、「PAO(パオ)=ポリ アルファ オレイン」というベースオイルでした。現在はエステルブレンドでスペックの調律がやりやすくなったこともあり、高性能オイル市場にPAOのみをベースとする100%化学合成オイルは、本当に少なくなってしまいました。エステルを配合せずに、PAOのみで超高性能オイルを作る難しさも理由のひとつです。
MAD MAX世代の方なら御存知の「バナナで釘が打てるオイル」も、CMの当時は100%PAOのベースオイルが自慢の高性能オイルでした。当時このメーカーのトップグレードオイルは、アメリカのV8乗りの間では絶大な信頼と人気があり、本当に定番中の定番でした。ただし、それは過去の話です。

オイル業界には、80~90年代に大人気だった某超高性能オイルメーカーが「改質油に化学合成油のラベルを付けて販売した」という、大事件がありました。
PAOと違い改質油は驚くほど安価であり、100%化学合成油と書かれた激安オイルに消費者は飛びつきました。これに激怒した「バナナで釘が打てるオイル屋さん」は、裁判で真っ向から勝負しましたが、残念ながら負けてしまいます。この瞬間から安物の改質油は化学合成油と名乗ることを許され、PAOと混ぜても半合成ではなくなり、「やらかした某超高性能オイルメーカー」は、自社ブランドを次々と改質油にして低価格勝負を始めました。
 この事態に、各オイルメーカーは価格競争で勝負するしかなくなります。こうなると、バナナで釘が打てるオイル屋さんも世の流れには逆らえなくなり、現在はPAOと改質油をブレンドした物を販売するに至りました。

この改質油なのですが、入れた瞬間はPAO並みに滑らかなフィーリングを感じることができます。価格も安く、財布に優しいオイルです。しかし、その性能を体感できる時間(距離)が非常に短いと感じます。単に僕が選択したオイルが粗悪過ぎる物だったのかもしれませんが、シッカリした銘柄の100%鉱物油の方が、油圧の安定度が高いと感じたため、使わないことにしました。

僕が普段乗っている自家用車や、会社のデモカーには、ロイヤルパープル(こちらの販売店で購入できます)の100%PAOを使用しています。ベースオイルに100%PAOを使用しているエンジンオイルは希少なので、本当に探すのに苦労しました。インターセプターにも、当然このオイル(20w-50)を使用しています。
他のオイルとは違い性能劣化が少なく、交換した際に「やっぱりオイル交換すると違うね!と感じない」ことの良さが理解できる人にお勧めします(交換した瞬間に良いと感じると言うことは、それまで使っていたオイルが体感レベルで劣化していたことの証明です)。