最期のV8(The last V8)

MAD MAX、MAD MAX2の劇中で、搭載エンジンを「ラストV8」と呼んでいます。この「最期のV8」は、何が「最期」なのか。
MAD MAX冒頭のカーチェイスシーンで、ナイトライダーのパーシュートスペシェルがV8であることが説明されます。追跡するマーチヘアーとビッグボッパー、そしてグースも追跡不能になるほどの性能差。そしてマックスのイエローインターセプターがイグニッションオンすると、カメラはマフラーのアップになり、腹の底から響くようなV8サウンド。セレクターレバーをDに入れると、再度マフラーのアップでV8サウンドを強調。こいつはV8を搭載しているから、今までのやつらとは違うぜ!と、排気音だけで理解させてしまう、素晴らしい演出です。
クラッシュしたパトカー2台の搭載エンジンについての言及はありませんでしたが、この時点までに少なくともV8は2基存在しています。

特に希少なエンジンという感じがないままに、MFPのガレージ内で「最期のV8」の話が出てくるため「MFPのファクトリーに残った最期の1基なんだ~」と思って観ていました。
ところが、MAD MAX2で再度「最期のV8」というセリフが出てきます。「世紀末世界に残った、実働するV8エンジンの最期の1基なんだ~」と一瞬思いましたが、ふと、MAD MAXを観賞した際と印象が違うことに気が付きました。よく考えてみれば、あんな所で暴走族に囲まれたヤツに、あれが世界に残った最期の1基だなんて判るはずがありません。
では、最期のV8とは、どういう意味なのか。

ここからは僕の勝手な推論であり、僕が勝手に納得している内容です。

ラストV8とは、「フォード クリーヴランド351-4V」というエンジンを指しています(推論なのに断言)。
フォードのV8は、長年ウィンザーというモデルが愛されていましたが、ボアアップの限界を迎え出力が限界に達し、新型エンジンの開発が必要になりました。
ここで登場したハイパフォーマンス版が、クリーヴランドです。
351(5.8L)が限界だったウィンザーに対して、クリーヴランドは最大で400(6.6L)まで排気量アップが可能です(ボアアップ+ストローカークランクの最大で408=6.7L)。

中でも351-4Vは、吸気のポートやバルブが冗談じゃないほどデカく、日本的な表現では「標準でハート型燃焼室」を採用。広大なスキッシュエリアを有することで、ビッグボアでありながら、高い燃焼効率を誇りました。
351-4Vは、日本的に言えば「RB20しかないところにRB26が登場」したような衝撃。本当に凄いことでした。(現在の評価ではなく、あくまでデビュー当時の評価です)
ちなみに「4V」は4バルブの略ではなく、4バレルの略です。通常モデルの2バレルキャブに対して、倍の4バレルになっているという意味です。

しかし、このエンジンが製造されていたのは70~72年の短期間で、チヤホヤされたのはアメリカだけ。オーストラリア フォードの車輌には、相変わらずウィンザーが搭載され続けていました。

本国じゃないので仕方がないといえばそれまでですが、それではオーストラリア フォードのファンが納得しません。
すでに製造終了だったクリーヴランドですが、アメリカに残った物を輸入し、ファルコンXBのGTなど一部車種に搭載することになりました。

ここでひとつ余談。
ファルコンXA~XCは、69~73年式ムスタング(当時表記)と酷似しているだけではなく、足回りやエンジンのパーツの互換性は100%。
レビン/トレノや86/BRZのような兄弟車に見えますが、実はそうではありません。
二代目ムスタングは69~73年
三代目ファルコンは72~79年
オーストラリアのファンがどれだけ可哀想なのか、御理解いただけたでしょうか。
箱もエンジンも、アメリカでのブームが終わってから与えられたような状態です。

このXA~XCファルコン(3代目ファルコン)が、今なお特別な個体とされている理由は色々あります。

  1. オーストラリアで独自設計された、歴史ある第一号車。
    マスタングに似ていますが、フォード・オーストラリア初の独自設計車輌です。
  2. アメ車のようにカッコ良く、レースでも速かった。
    まさに、特別なエンジンを搭載した特別なマシン。ハコスカGT-Rと似たレジェンドです。
  3. MAD MAXの世界的な大ヒット。
    ギネスブックに10年以上掲載されていたほどの、世界的な大ヒット作。
    日本でいうところの「主役が変わってもガンダムさえ出せば作品は続く」のと同じで、「インターセプターが出てこないとファンに無視される」ほど、MAD MAXシリーズにとってインターセプターは不可欠なアイテムです。

オーストラリアのクルマ好きが、喉から手が出るほど欲しかったクリーヴランド351-4V。
ファルコンXB GTと共に発売されることになるのですが、すでにアメリカでの生産が終了していることもあり、大量に輸入することができません。
そこで、オーストラリアのエンジン工場で、クリーヴランドの現地生産が決定しました。
(パンテーラ後期のクリーヴランドも、このオーストラリア工場から輸出された物です)

そして、オーストラリアで生産し続けたクリーヴランドは、ファルコンXCの生産終了(フルモデルチェンジ)と共に79年で生産終了するという告知が出されました。これは、クリーヴランドと共にチューニングやレースを楽しんできたオーストラリアのカーマニアにとって、とても悲しい出来事でした。
V8といえばクリーヴランド、クリーヴランドこそ、俺たちが愛したV8。
クリーヴランドは最強のV8であり、もうあれほどのV8は製造されないだろう。
MADMAXの公開は1979年。
まさに、クリーヴランド製造中止の速報を耳にし、失意の中で書いた脚本だったのだと思います。
「最期のV8」
遥か未来にクリーヴランドを愛する主人公を称える一言を加えたかったのでしょう。

以上、何の根拠もない勝手な想像です。妄想を垂れ流しました。
こんなことを考えていると、塩の砂漠を北に6000km渡った国では、「最期の直6」と呼ばれるエンジン搭載のスポーツカーが走っていたりして…などと、さらに想像の翼が広がります。