金色のライトカバーLight cover 

インターセプターといえば、ボンネットから突き出した銀色のスーパーチャージャーと、8本出しのサイドマフラー、そしてライトカバーの金色のスリットがトレードマーク。それ以外が真っ黒なだけに、どうしても目が行ってしまいます。

「どうしてこだわって製作しているのに、ライトカバーだけ黒いままなんですか?」と、よく聞かれます。そのたびに「まだ未完成だから、いずれ完成したときに金に塗ります。ダルマの目みたいなモンです」と回答してきました。
実は、手に入れる前はインターセプターに餓えた状態だったこともあり、アレもコレもコダワリたいという気持ちでしたが、いざ手に入れて形になってしまうと、餓えが満たされて「もうこれでいいや」という気分になりがちです。ライトカバーというか、金色のスリット部分が黒いというのは、誰が見てもおかしい。つまり未完成の象徴。そう、スリットが黒いうちは未完成品であり、「もうこれでいいや」にならないので、インターセプター作成に力を注いでいけると考えていました。
これはウソでもなんでもない本心ですが、当初から何度も書いているように「スーパーチャージャーのON/OFFに心血を注ぎたい」ので、それ以外の部分に関しては二の次。そして、どうせ作るなら「本物のストーンガード(後述)を作りたい」という、秘めたる野望があったからなのです。

そんな理由から後回しになっていたのですが、黒いカバーも見慣れてしまい、最近では「このままでも悪くないな、むしろ黒いままの方がいいんじゃないかな」という気になってきたため、モチベーション向上も兼ねて、以前から考えていたプロジェクトを実行することにしました。

これぞ超合金!Super alloy 

根本的な話に戻りますが、ライトカバーはなぜ金色なのでしょう。
そこには単なるデザイン上のアクセントではなく、機能部品としての意味があるに違いありません。
海外のインターセプタービルダー達は、アクリル板やポリカーボネートに金のカッティングシートを貼ったり、アルミの薄板をカットしてアルマイトや塗装で金にした物を、アクリルと重ねて固定しています。見た目だけ同じにするならば、このような方法で良いと思います。実際の劇用車も、透明板に金色で塗装した物を使用しています。

ライトカバーは、文字通り奥にあるヘッドライトを保護するためのカバーです。劇中で使用された物は、恐らくアクリル板です。しかし、想定しているのは近未来の耐弾性品だと思うので、映画で言うところの近未来である現在製作するインターセプターには、アクリルではなくポリカーボネートを使用するべきだと考えます。ポリカーボネートは日本の機動隊が使用するライオットシールドの素材で、強度と弾性は折り紙付き。跳石や小口径の銃弾なら余裕で弾き返します(厚さや形状にもよりますが)。

そして、金色のスリット部分は、防護柵であると考えます。つまり、カッティングシートや塗装、アルミの薄板ではなく、強靱な金属性であり、単なるカバーではなく「ストーンガード」として機能する金網でると解釈しました。そして、金色に関しても、単なるデザインではなく「何らかの意味があって金色」に違いありません。つまり…
◆あの細さ&薄さで充分な強度のある超合金
◆金色であることに意味(理由)がある
このふたつの謎に満足な回答ができれば、それこそがインターセプターのストーンガード。と、勝手に独自解釈しました。

強度のある薄板に関しては、重金属まで含めれば選びたい放題ですが、自動車用として使いそうな素材、それもオーバーハング部分に使用するとなれば、やはり軽量である必要を感じます。軽さと強度を兼ね備え、薄板として入手可能であり、なおかつカットしやすい素材。僕は星の数ほどある金属の中から、これに適した正真正銘の超合金に辿り着きました。それが超々ジュラルミンです。これはアルミ系合金の中で最高の硬度を誇る合金(7000番系)。英語表記はESD (Extra Super Duralumin)で、第二次世界大戦中に日本の住友金属が完成させた「超軽量」と「超高強度」を兼ね備えた秘匿合金です。押し出し成形材を零戦のフレームの一部に使用することで、30kg(一説によると300kg)もの軽量化を果たすことに成功したと伝えられています。
現在では広く使われていますが、零戦に使われた当時の「日本渾身の素材」を、インターセプターに使用する。日本で製作している日本製インターセプターとして、これ以上ない個性ではないでしょうか。インターセプターのデザイナーが何を想いデザインしたのかは判りませんが、ストーンガードとして万全を誇る強度と軽さから、超々ジュラルミンは最高の素材だと考えます。

次に「金色」ですが、単なる塗装やステッカーではなく、金色であること自体に何か意味があると信じていました。理由をこじつけるのではなく、そこには金色である必然性があったに違いありません。そこで辿り着いたのが、窒化チタンコーティングです。
窒化チタンコーティングの特徴は、圧倒的な耐摩耗性と高硬度、高密着性、そして耐蝕性。そして表面は黄金色になります。ドリルの刃に施すコーティングといえば解ると思いますが、素晴らしい密着性と耐摩耗性の高さを誇ります。耐蝕性も高いため、寒暖の差や雨に濡れることもあるライトカバーに使用しても問題ありません。
ちなみに、超々ジュラルミンには「大気中で酸化しやすく長期的に性能を維持できない」という弱点がありますが、窒化チタンコーティングの強力な被膜と組み合わせることで、その弱点を補いつつ、さらに強度も上がるという相乗効果が得られます。つまり、超々ジュラルミンを窒化チタンコーティングすることには意味があり、結果として表面が金色になるのも必然なのです。

…というような内容を妄想したとしても、それは机上の空論。実際に製作するにあたり、ポリカーボネート板の入手と正確なカット、再生鋼ではなくヴァージン鋼(純度が段違い)の超々ジュラルミン板の入手とレーザーカット、仕上げの窒化チタンコーティング…を、図面から完成まで個別の業者を探して依頼した場合、経験則から失敗が目に見えています。門外漢が訳知り顔で発注するのと、クォリティコントロールできるプロが適材適所を指示して発注するのでは、仕上がりに天と地ほどの差があるからです。
そこでお願いしたのが、これらすべてを丸投げで依頼できる33Racingの寺田氏です。
寺田氏は「言われたとおりやりました」や「とにかく安く早いです」ではなく、依頼に対して「120%のクォリティ」で応えてくれるプロフェッショナルです。
僕は当初、図Aのような物を想定していました。ストーンガードの厚さは1mmです。ちょっと薄すぎですが、これ以上厚くするとボディとライトカバーに段差ができてしまいます。ところが寺田氏に相談したところ、ストーンガード部分の厚さを残したまま、図Bのように取り付け面だけ1mmになるよう再設計。超々ジュラルミンの薄版に段差を付けることで、取り付け厚を変えずにストーンガードに厚さを設ける設計にして、僕の本物を作りたいという情熱を、そのまま形にしてくれました。
こうすることで、細いストーンガード部分の剛性が保たれ、近くで見た際にもエッジ感、立体感が際立ちます。
機械加工に詳しい方なら御理解いただけると思いますが、薄板を部分的に1mmに削るというのは非常に大変な作業。これを実現してくれた寺田氏に感謝すると共に、この薄さ、この細さで剛性を確保できる超々ジュラルミンに改めて驚かされました。

しかし、問題は窒化チタンコーティングです。超々ジュラルミンと窒化チタンコーティングは相性が悪く、そのままコーティングすると剥がれてしまう可能性があります。これを回避するためにクロムメッキを下地に入れて、その上に窒化チタンコーティングを施すというアイデアに行き着きました。これならコーティング層がさらに厚くなるため、超々ジュラルミンの耐候性がさらに増すでしょう。
遂に、細くても軽くて高強度な合金、それを金色にする理由、金色にする方法が確定しました。

…躊躇する理由は無いので即発注しようとしたのですが、残念なことに驚きの見積り価格。ちょっと無理すぎるため、今回は超々ジュラルミンの表面に金色のアルマイト処理を施すことにしました。超々ジュラルミンはアルマイトが綺麗に発色しないと言われていますが、それは不純物が多い再生鋼を使用した場合の話です。ヴァージン鋼を使用したお陰で、純金のように輝くストーンガードが完成。
ノーズの取り付け面が若干オーバル状ということもあり、見る角度ごとに表情の変わる光り具合。黒いカバーのクールな雰囲気も悪くありませんでしたが、やはりインターセプターのライトカバーは金色ですね。大満足の完成度です!

※超々ジュラルミンの開発について詳しく書かれているサイトはこちら

※零戦の父、堀越二郎氏が超々ジュラルミンを選択した経緯が記されているのはこちら