フロントバンパー

インターセプターをインターセプターたらしめるガジェットのひとつが、ボディの外装パーツです。ベースはオーストラリアフォードの初代ファルコン中期型ですが、「フロントバンパーカウル」「前後オーバーフェンダー」「リアスポイラー」「ルーフスポイラー」が追加され、まったく異なるスタイルに仕上がっています。

エアロバンパー部分のベースデザインは、ファルコンが現役当時、ストリートからレースまで幅広く販売されたカウルキットです。元々はピーターアルカディパン社が「ファルコン ノーズコーン」という名称で製造販売していた物で、イーグルマスク、コンコルドフロント、モンツァノーズという愛称で呼ばれることもありましたが、あくまで「ファルコン ノーズコーン」が、オリジナルの正式名称。白いファルコンの画像が正真正銘のピーターアルカディパン社製オリジナルです。
劇用車が実際に装着していた物が完全にオリジナル品なのか、当時出回っていたコピー品なのかは、今となっては判りません。ただ、僕も海外のファンの多くも、オリジナル新品もしくは、オリジナルの中古品を加工装着したのではないかと考えています。

オリジナルの形状がくっきりとした画像で残っているなら、この画像から図面を起こして再現すれば…と考えるのは早計です。実は、バンパーだけではなくフロントフェンダーのことも合わせて考える必要があるからです。
ピーターアルカディパン社では、「ファルコン ノーズコーン」は販売していましたが、オーバーフェンダーは販売していません。つまりインターセプターは、市販のバンパーに映画用に製作したオーバーフェンダーを組み合わせているのです。

一般的にオーバーフェンダーは、タイヤやホイールのサイズを変更した際に、ボディからタイヤがハミ出さないようにするための物で、幅の広いタイプを選択すれば、より幅広いタイヤが履けます。ちなみにタイヤがフェンダーからハミ出ると、驚くほど空気抵抗が増えて、加速、最高速、燃費のどれもが大幅にダウンします。ハミ出しタイヤは百害あって一利無しです(最速のイメージがあるF1マシンはタイヤムキ出しですが、あれはルールなので仕方なくムキ出しなのです。タイヤをカバーするボディカウルを付ければ、さらに段違いに速くなります)。

ここでクエスチョン。フロントバンパーありきでフェンダーのデザインをしたのか、フェンダーありきでバンパーの形状を変更したのか。自動車のアフターパーツ業界に詳しい方なら御存知だと思いますが、フロントバンパーとフロントフェンダーは、一体デザインにするのが常識なのです。
ストリートカーからレースカーまで、オーバーフェンダーはバンパーと一体でワイド化するのがセオリー。フェンダーの張り出し具合に合わせて、バンパーに幅を持たせ一体感のあるデザインにしなければ、デザイン的に破綻するからです。
世界中で販売されているインターセプター用ボディキットを見て回ると、このセオリーを知っている自動車屋さんがデザインしたバンパーの多くは、非常にワイドなデザインになっています。
ところが、世界一のインターセプター ビルダーと評されているゴードン氏のフロントバンパーは、決してワイドではなく、むしろ「ナロー?」と感じる程です。上の画像は左がアメリカ製で、右がゴードン氏のバンパー。フェンダー手前の幅の差が一目瞭然だと思います。
なぜ、こうも違うのか。
それは、ゴードン氏が自動車屋というよりはクリエーターだからです。自動車デザインの常識にとらわれない彼は、映像から詳細な図面を作成し、映画の中で走るインターセプターに忠実な形状を再現しています。

この画像を見てもらえば良く解ると思いますが、どれも完成度の高いインターセプターなのに、並べるとエラの張り出し具合が全然違うんです。
では、何を持って「似ている」「忠実」とするのか。個人的には劇中で活躍する姿に似ていること以外にありませんが、それぞれの方が「これは本物ソックリだ!」と思えばそれで良いのです。ちなみに僕は、「映画のインターセプターと似ている」「自分の中にある映画のイメージに近い」が、大切だと思っています。あくまで、これは僕の主観であって、他を否定するつもりはありません。「ピーターアルカディパン社のファルコン ノーズコーンを使っていなければ本物じゃない」と思う人や、「劇中車とは違うけど俺の中のイメージはこうだ!」という人も居て、それぞれが自分の正解で良いと思っています。

僕が本物ソックリだと感じているゴードン氏のデザインは、撮影用車両(いわゆる劇用車)ではなく、あくまで劇中の映像に似せる努力をしているのが特徴です。画面を見ながらなんとなく造形するのではなく、活躍する僅かな時間すべてをスクリーンショットして、そこから図面を起こすという作業は、決して簡単ではありません。車体が真っ黒な上に、ビデオやレーザーディスクの画像では、細部のディテールを正確に確認することが困難。そんな状況から最適解に仕上げたことで、それまでのレプリカとは一線を画する忠実度に仕上がったのです。ゴードン氏のインターセプターが世に出た後で、その他のレプリカのレベルが格段に進化したことからも、歴史に残る造形と感じます。

-追伸-
これは映画ラストの橋のシーン撮影中の貴重なオフショット。劇中車は「ほぼ真っ黒」で良く解りませんが、この劇用車の画像ではバンパー形状が一目瞭然です。これを真似すれば本物だろうと思いますが、恐らく黒くてデカい2ドアのアメ車に、インターセプターっぽいエアロパーツを付けて、ボンネットからスーパーチャージャーが顔を出していれば、マニア以外には「本物そっくりのインターセプター」に見えると思います。備忘録として細部の違いに言及しましたが、本来は並べても誰も気がつかない些細な差です。